遺伝子診断ネットワーク「LC-SCRUM-Japan」における研究成果により、ROS1融合遺伝子陽性の肺がんに対する治療薬と診断薬が保険適用として承認

国立研究開発法人国立がん研究センター東病院では、呼吸器内科長後藤功一が研究代表者となり、多施設共同研究として全国肺がん遺伝子診断ネットワーク「LC-SCRUM-Japan」を活用した研究が実施されてきた。当該研究の成果及び治療開発への貢献によって、ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発非小細胞肺がん(以下、ROS1肺がん)に対する治療薬として、分子標的薬クリゾチニブの適応拡大が承認された。併せて、ROS1融合遺伝子検出のための体外診断用医薬品(ROS1融合遺伝子検出キット)が、この治療におけるコンパニオン診断薬として承認された。

肺がんは我が国におけるがん死亡原因として最多である。現在、日本で年間に約13万人が肺がんを発症し、7万人を超える患者が肺がんで死亡している。肺がんの約85%を占める非小細胞肺がんにおいては、約2/3の患者が手術不能の進行がんとして発見され、抗がん剤による薬物治療や放射線治療などを受けている。しかしながら、その治療効果は充分ではなく、より有効な新しい治療法の開発が必要とされている。

近年の遺伝子解析技術の進歩により、肺がん発症の原因となる様々な遺伝子変化が相次いで発見され、これらの遺伝子変化を有する肺がんには、各々対応する分子標的薬の治療効果が非常に高いことが分かってきた。これまでに、日本人の非小細胞肺がんの約30%を占める、EGFRという遺伝子に変化がある肺がん(EGFR遺伝子変異陽性肺がん)に対しては、EGFRを標的とする治療薬が高い治療効果を示し、また、非小細胞肺がんの約5%に存在するALKという遺伝子に変化がある肺がん(ALK融合遺伝子陽性肺がん)に対しては、ALKを標的とする治療薬の効果が高いことが明らかになっている。

2007年には、ROS1遺伝子の変化(ROS1融合遺伝子)が肺がんに存在することが分かり、EGFRやALKに次ぐ肺がんの治療標的として注目されたが、このROS1融合遺伝子をもつ肺がん(ROS1肺がん)の割合は、非小細胞肺がんの1~2%と極めて希少であるため、治療開発のための臨床試験を行うのに充分な数の患者を集めることが難しいという問題があった。その後、ROS1以外にも、希少な遺伝子変化をもつ肺がんがいくつか存在することが分かってきました。そこで、たとえ希少であってもその病気で苦しんでいる患者が存在するのであれば、有効な治療薬の開発に挑戦するべきであるという考えのもと、この希少な肺がんを全国でスクリーニングして臨床試験につなげる目的で、全国規模の肺がん遺伝子診断ネットワーク「LC-SCRUM-Japan」が2013年に組織されました。

LC-SCRUM-Japanでは、全国の肺がん診療施設の参加を募り、患者の同意を得た上で、遺伝子検査のために肺がんのサンプルを提出してもらい、提出されたサンプルを用いてROS1を含む複数の希少な遺伝子変化の有無を無料で調べ、遺伝子変化が特定された患者には、該当する分子標的薬の臨床試験を紹介し、治療開発につなげている。ROS1肺がんについては、日本を含む東アジア4カ国でROS1を標的とする治療薬クリゾチニブの臨床試験が2013年から開始されたため、LC-SCRUM-Japanで特定されたROS1肺がん患者がこの臨床試験に登録された。

試験全体では、合計127例のROS1肺がん患者が登録され、クリゾチニブ治療の奏効割合は69%と良好な成績が得られた。この試験結果をもとに、わが国では、2017年5月にROS1肺がんに対する治療薬としてクリゾチニブの適応拡大が承認された。併せて、ROS1融合遺伝子検出のための体外診断用医薬品(「OncoGuide AmoyDx ROS1融合遺伝子検出キット」)が、ROS1肺がんに対するクリゾチニブ治療のコンパニオン診断薬として承認された。この診断薬開発においても、LC-SCRUM-JapanにおけるROS1融合遺伝子検査のデータが活用され、診断薬承認に大きく貢献した。

今回の試験の成果により、我が国のROS1肺がんの患者に有効な治療薬を届けることが可能となり、今後、患者の長期生存につながることが期待されるであろう。
(Medister 2017年9月19日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センター 遺伝子診断ネットワーク「LC-SCRUM-Japan」における研究成果により、ROS1融合遺伝子陽性の肺がんに対する治療薬と診断薬が保険適用として承認

戦国武将とがん

書評

がんの種類