肝臓を再構築する肝前駆細胞へのリプログラミングにラット、マウスで成功

国立がん研究センター研究所分子細胞治療研究分野の研究チームは、低分子化合物を用いることで遺伝子組み換えを行うことなく、ラットおよびマウスの成熟肝細胞から、生体外で増殖可能で、かつ生体内で高い再生能を示し肝臓を再構築する肝前駆細胞CLiPへのリプログラミングに成功した。

肝臓には臓器の中で唯一再生能力があるため病気があっても、修復、再生し機能が維持される。しかし、慢性肝炎などでは再生能力が低下し、線維化や肝硬変へと進行し、最終的には肝がんが引き起こされることもある。このような重篤な肝疾患に対する治療法は、現在、肝移植しかない。しかし、絶対的にドナーが不足しており、これを代替するため肝細胞移植が提案されてきたが、肝移植治療同様にドナー不足問題を抱えることに加え、凍結保存に伴う肝細胞の機能低下や再生能低下の問題もあり、現実的な手段とは見なされていなかった。そのため近年、多能性幹細胞をソースとして、再生能を有する移植可能な肝前駆細胞や成熟肝細胞を生体外で安定かつ安全に供給する試みが行われている。

これまでに、研究チームではシグナル伝達阻害剤である低分子化合物に着目し、様々な組織由来の幹細胞を生体外で安定に培養できることを報告してきた(Kawamata & Ochiya. 2010, PNAS; Kawamata & Ochiya. 2012 Sci. Rep.)。この経験と知識を背景に、本研究ではこれらの低分子化合物を用い、生体外で成熟肝細胞を肝前駆細胞へとリプログラミングできることを明らかにした。本研究では、幹細胞維持に有用であることを確認していた4つの低分子化合物の全ての組み合わせを添加してラットの肝臓細胞を培養し、細胞が増殖するかどうかを検討した。その結果、3つの化合物の組み合わせ(Y-27632、A-83-01、CHIR99021)を加えたときに、肝前駆細胞だけでなく、成熟肝細胞までもが増殖能を獲得し、形態的に幹前駆様の細胞へと変化することが明らかになった。実際に遺伝子・タンパクの発現解析結果からも、複数の肝前駆細胞マーカーの発現が低分子化合物存在下で上昇していることが確認できた。さらに、肝分化誘導または胆管分化誘導への刺激を加えると、これらの肝前駆様細胞が実際に肝細胞または胆管上皮細胞へと分化することが確認でき、表現型としても確かな肝前駆細胞であることが明らかとなった。本研究では、この細胞を、Chemically-induced Liver Progenitors: CLiPと命名した。

長期培養に成功したラット由来のCLiPを、慢性肝炎モデルの免疫不全マウス(cDNA-uPA/SCIDマウス)の肝臓に移植し再生能力を評価したところ、全てのマウス肝臓の75-90%が、ラット細胞に置換されていることが判明した。置換率が75-90%に達した移植後8週間で摘出したマウス肝臓は、大きさも正常で、かつ病理学的にも正常な構造であり、安全性の面でも問題ないことが示された。

今後、ヒトの肝細胞を利用したCLiPを開発することにより、患者自身の検体をソースとした新たな細胞治療や、肝がんの発生機序の解明への応用が期待されるであろう。
(Medister 2016年12月5日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センター 肝臓を再構築する肝前駆細胞へのリプログラミングにラット、マウスで成功 再生医療やがん治療への応用に期待

戦国武将とがん

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