前がん病変での幹細胞の存在を明らかにし、バレット食道からがんへの進行過程を解明

国立研究開発法人国立がん研究センター(略称:国がん)の研究所・分子細胞治療研究分野は、新たに開発した培養手法を用いて食道がんの前がん病変と考えられていたバレット食道の組織生検サンプルから、幹細胞を単離・培養することに成功しその存在を明らかにした。

バレット食道とは、下部食道の粘膜が扁平上皮から円柱上皮に変化する病変で、1950年にロンドン大学の胸部外科医Norman Barrettによって報告されたため、そのような名前が付いた。バレット食道は、食道がん(特に腺がん)の危険因子で、食道がんの前がん病変と考えられてきた。実際にこれまでの統計的な解析や病理学的な知見により、バレット食道が食道がんへと進行していくことは明らかにされていたが、具体的にバレット食道の細胞がどのように遺伝子異常を蓄積し、より悪性度の高い細胞へと進展していくのかは明らかにされていなかった。

そのような背景を踏まえ、国がんでは様々な進行状態の12症例のバレット食道から内視鏡により生検組織を採取し、独自に開発した新しい培養手法を用いて、安定した増殖能を持つ細胞群を単離・培養した。またこれを、マイクロアレイ法や次世代シーケンサーを用いて包括的な遺伝子発現・変異解析を行った。

その結果、細胞培養実験では幹細胞を単離・培養することに成功しその存在を明らかにすることができた。このことにより、前がん病変においても幹細胞というものが存在し、病変の維持に関与していることが示唆された。また、幹細胞のゲノム変異解析を行うことにより、バレット食道が食道がんの前がん病変であることを裏付けることができ、がんへの進行過程においてゲノム変異が蓄積して腫瘍が悪性化してゆくことを示唆した。

今回の幹細胞培養手法は、他の様々ながん種においても応用されるであろう。また、今後さらに前がん病変の性状を明らかにすることで、前がん病変の早期検出による早期診断や、前がん病変の幹細胞の除去などといった新たな治療法の開発が期待されるであろう 。
(Medister 2016年2月26日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センター 前がん病変での幹細胞の存在を明らかにし バレット食道からがんへの進行過程を解明

食道表在癌―マクロとミクロの接点
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