癌治療における漢方薬の併用
順天堂医学部 医史学 客員教授
丁 宗鐵

現在、癌の治療は、
  1. 外科(手術)療法
  2. 化学療法(抗癌剤)
  3. 放射線療法
  4. その他(免疫療法など)
をケース・バイ・ケースで組み合わせて行っている。

このうち、化学療法で使う各種の抗癌剤は、癌細胞を殺して癌を縮小させる効果があるが、正常細胞に対して、副作用も強く、悪心・嘔吐・食欲不振・下痢・脱毛・肝臓障害・全身状態の低下やそのほかのさまざな障害が現れる。また、放射線療法でも、白血球減少・悪心・嘔吐・食欲不振などの副作用が見られる。しかし、何と言っても抗癌剤と放射線療法は、宿主(生体)の免疫力も障害させてしまうことが、最大の問題点である。癌が出来てさらに転移するのは、宿主の免疫力が低下しているからである。それをさらに障害させることは、二重の意味で癌を持つ生体には良くない。

一方、漢方薬の中にも、癌細胞の増殖を抑える制癌作用を持つものがあることが確かめられているが、現在までの研究では、直接的に癌細胞を破壊・殺傷する効果は、西洋医学の抗癌剤の方が強いとされている。

ただし、漢方薬を化学療法や放射線療法に併用すると、制癌効果(癌細胞を破壊したり増殖を抑える効果)が強められるとともに、副作用が軽減されることが明らかにされている。また、免疫力を維持する働きもある。西洋薬の癌治療に併用する漢方薬は、十全大補湯・補中益気湯などの「補剤」が主体で、種々の副作用を軽減して、痛みも和らげる。これらの処方に配合されている「薬用人参」や「黄耆」は、免疫力を高め、抗癌剤や放射線療法による白血球異常そのほかの副作用を抑えることが科学的に確かめられている。

また、十全大補湯・補中益気湯には、食欲の改善効果もある。食欲改善は進行癌などの患者の延命させるポイントのひとつで、「漢方薬併用で食欲改善・延命効果が認められた」という報告が多数みられる。また、桂枝茯苓丸・当帰芍薬散・桂枝加朮附湯・真武湯の併用も、癌の痛みを和らげる効果や、手術後の回復促進、癌の再発抑制などの効果が期待できる。 このほか、小柴胡湯や柴苓湯などの処方は、抗癌剤の服用に伴う「薬用性肝障害」の治療・改善にも有効である。小柴胡湯には、C型肝炎ウイルスなどによる肝臓癌の発症予防効果も認められている。

肝臓癌は、肝硬変や慢性肝炎から発展することが多いが、肝硬変や進行した慢性肝炎などに予防的に小柴胡湯を投与することで、肝臓癌の発生がかなり抑えられる。

これまでの経験から癌の患者に比較的使用されやすい対象をあげ、次に治療法と問題点及び漢方薬適応と思われる点ついて次に表にまとめてみた。


1.骨髄障害 ・十全大補湯
・小柴胡湯
・八味地黄丸
・補中益気湯
・人参養栄湯
強力な化学療法により、骨髄抑制を来し、免疫低下を起こし感染症を引き起こしやすい。漢方薬は白血球減少の予防作用がある。漢方薬の効果的な使用方法は、化学療法前から服用を開始することである。
G-CSFは好中球を増加させるが、血小板は増加させない。漢方薬は血小板にも有効との報告もある。
2.感染症 ・十全大補湯
・小柴胡湯
・八味地黄丸
・補中益気湯
・人参養栄湯
癌患者は化学療法や放射線照射がなくとも、癌の進行に伴い免疫は低下しており、感染症、真菌症に罹患しやすい。感染症は癌患者の死亡原因の第1位であるが、現代医学では、慢性的な免疫低下に用いられる薬剤はない。MRSAに対する漢方薬の有効性が報告されている。漢方薬は免疫低下状態に対する維持療法と位置付けられる。感染防御の点から漢方は有用である。
3.食欲不振 ・十全大補湯
・小柴胡湯
・八味地黄丸
・補中益気湯
・六君子湯
・人参養栄湯
様々な理由で癌患者は、食欲不振に陥りやすいが、漢方薬は消化器系の働きを整え、食欲を亢進させるだけでなく、消化吸収を高める
4.腸管マヒ
 イレウス
・十全大補湯
・小柴胡湯
・八味地黄丸
・補中益気湯
・六君子湯
・人参養栄湯
手術、化療、放射線治療により起こる腸管麻痺に対して、西洋薬で漢方薬に匹敵する薬剤はない。
抗癌剤、モルヒネでも腸管麻痺は起こる。こうした麻痺は、プロスタグランジン等が使用されるが、この薬でも効果のなかった症例に大建中湯が有効との報告もある。
5.下痢,便秘 ・大黄剤
・半夏瀉心湯
・人参剤
・大建中湯
・半夏瀉心湯
手術、化療、放射線に伴う下痢、便秘は非常に多い。漢方薬が有効とされる対象も非常に多い。大建中湯は麻痺性の便秘以外に手術後の短腸症候群(下痢)に有効との報告もある。下痢で困っている症例は多い。骨髄移植後の難治な下痢もある。これらには、黄・遠志が配合された漢方が著効を示す。
大黄剤は、大腸における栄養吸収には影響を与えず、大腸のみで排便を促進するので、体力の弱っている担癌患者の便秘に適した薬である。
6.皮膚
 粘膜症状
・黄連解毒湯
・当帰飲子
・十全大補湯
放射線、化療の影響による口内炎、皮膚枯燥感、皮膚掻痒症、特に5-FUで口内炎は高頻度に起きる。これらに漢方薬は有効である。
7.宿主免疫能を賦活する生薬 ・黄,晋耆
・黄耆,紅花
・烏薬,瞿麦
・薬用人参
・山
・山茱萸
・胡黄連
・印度蛇木
漢方薬として応用されるキノコ類の多糖体には、宿主免疫能を賦活化する活性が認められる。漢方薬こそ、免疫活性多糖の宝庫とも言うべきで、茯苓・猪苓・当帰・紫根・艾葉・薬用人参などの多糖に免疫賦活活性が見い出されている。これらの生薬は、体質と症候に合わせ1〜6の項目の漢方薬と適宜組み合わせて応用する。その場合には「煎じ薬」で処方される


自己リンパ球活性化療法と漢方薬の併用

担癌動物の実験系でも、実際のヒトの症例でも自己リンパ球活性療法に漢方薬の経口投与を加えると生存期間の有意な延長が見られる。この現象は、自己リンパ球活性化療法開発のごく初期から発見されたものである。漢方薬と自己リンパ球活性化療法の組み合わせは、癌の再発を防止し、転移巣の縮小をもたらし著効を示す。

そのメカニズムとしてが、漢方薬が直接癌組織の縮小をもたらすのではなく、漢方薬の成分によって担癌宿主の免疫能が賦活され、自己リンパ球活性化療法の効果が高まるためであることが明らかにされている。

応用される漢方薬はほとんどすべての症例で表のうち7の項目の生薬が配合されているものである。特に印度蛇木に強い宿主免疫賦活作用がある。なお、項目7の生薬は、近年の免疫薬理学的研究で明らかになってきたものである。

先端医療と漢方薬の組み合わせは、一見奇異な印象を与えるかも知れない。しかし、漢方薬の担癌宿主の全身への作用は、限界に挑む先端医療の欠陥を補い、その効果を高め安定化させている可能性がある。

がんの治療方法へ

Copyright© Hakusan-Doori Clinic
このサイトにおけるすべての無断転記を禁じます。
また、免責事項については、このサイトについてを御覧ください。