癌の分化について
(財)結核予防会結核研究所
抗酸菌レファレンス センター センター長
病理医 菅原 勇

  これから癌(腫瘍とも言う)の分化を説明しますが、癌の典型例として肺癌をとりあげて分化を説明します。一般に、癌と言えば、癌腫(肺癌、胃癌、大腸癌など)と肉腫(白血病、骨肉腫、悪性脳腫瘍など)の総称です。

1. 分化とは?
 南山堂医学大辞典によると、「腫瘍細胞が、その発生した組織や器官の正常細胞に近ければ近いほど分化した腫瘍」という。反対に、低分化腫瘍は、その発生した上皮との類似性が少ないことを意味します。高分化というと、発生組織の正常細胞にきわめて近いし、低分化だと、正常細胞と似ても似つかない、中分化だと、その中間になります。患者の予後は、高分化癌が低分化癌より良好です。

2. 上皮とは?
 癌の話を書こうとすると、なじみのない言葉が、頻繁に出てきます。上皮という言葉を説明します。上皮とは、体表面や中空臓器を覆っている組織で、3種類の上皮が知られています。上皮を構成している細胞の形から、腺(立方)上皮、扁平上皮、移行上皮と呼んでいます。腺上皮は、胃、腸、肺、膵などに存在します。扁平上皮は、皮膚、食道、子宮頸部などに見られます。移行上皮は、膀胱、尿管に見られます。これから説明します肺癌は、基本的に腺癌に属し腺上皮が癌化したものですが、癌の分化とのかねあいで、いろいろの肺癌が生じてきます。

3. 肺癌とは?
 肺癌とは、肺の腺上皮が癌化した腫瘍です。たばこを吸う人の腺上皮が、先ほど説明した扁平上皮になるので、これを扁平上皮化生と言っています。そのほかに、腺上皮の分化の程度に応じて様々に分かれます。
 一口に、肺癌と言っても、形態から見ると、腺癌、扁平上皮癌、小細胞癌、大細胞癌などに分かれます。日本では、腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌、小細胞癌の順に多いです(国立がんセンターにおける外科切除例)。
 イギリスでは、扁平上皮癌、小細胞癌、腺癌、大細胞癌の順に多いです。国によって、発生頻度に、違いがあるようです。

4. 扁平上皮癌の分化とは?
 扁平上皮癌は、形態から、扁平上皮起源だと言うことがわかります。肺には、扁平上皮がないのにどうして扁平上皮癌が発生するのでしょうか。興味深い事実です。でも、先ほど述べた分化の説明から、分化に様々の程度が見られます。高分化、中分化、低分化に分けます。写真1に、扁平上皮癌の分化の例を示します。左から、高分化肺扁平上皮癌、低分化肺扁平上皮癌と言います。ですから、肺扁平上皮癌患者と言っても、分化の程度の違いのある扁平上皮癌が沢山存在することになります。扁平上皮癌の治療に、放射線治療が用いられることがあります。効果も、分化の程度が影響します。低分化扁平上皮癌を子細に見ると、低分化腺癌に似たところがあります。

5. 腺癌の分化とは?
 写真2に、肺腺癌の例を示します。左から、高分化肺腺癌、中分化肺腺癌、低分化肺腺癌を示します。腺上皮から構成される腺管の発達により、分化の程度を分けます。低分化肺腺癌では、この腺管が、乏しい。この腺癌が肺の末梢に、生じると、診断が難しく、確定診断したときは、リンパ節に転移して、摘出手術が難しいです。この場合には、肺癌治療法の1つである活性化リンパ球療法が有効です。私の経験した進行肺腺癌患者で、活性化リンパ球療法が効いて、余命半年と言われた人が、5年以上延命した例がおります。

6. 他の型の肺癌
 そのほか、肺大細胞癌、肺小細胞癌がありますが、これも、肺にある腺上皮の分化異常で出来たと考えられます。分化の程度が、異なっています。私の二兄が、肺小細胞癌で死にました。彼の小細胞癌組織を用いて、癌胎児性抗原の発現を、免疫組織染色で調べたところ、部分的に、陽性でした。ですから、この小細胞癌は、同じ腺上皮から発生したと考えられます。肺大細胞癌の癌細胞は、肺小細胞癌の癌細胞より大きく、細胞の異形度がつよいです。

7. 分化の異なる肺癌を免疫学的に分類できるだろうか。
 モノクローナル抗体を作る技術を用いることにより、異なった肺癌を分類することが出来ると考えられます。例えば、肺腺癌細胞を、マウスに免疫して脾細胞を取り出し、細胞融合し、肺腺癌細胞と反応するモノクローナル抗体を作ることが出来ます。私の研究では、このようにして作製したモノクローナル抗体は、ほとんどの肺腺癌に反応しますが、低分化肺扁平上皮癌ともわずかに反応しました。さらに、肺大細胞癌とも反応しました。従って、肺腺癌と肺扁平上皮癌を厳密に、区別出来ません。
このことは、言い換えるなら、肺癌は、肺に存在する腺上皮を構成する細胞が癌化したもので、分化の程度が異なるにすぎないことになります。どうして、この腺上皮が癌化して、異なった型の肺癌になるのか、その詳細な機序はまだ完全に明らかになっていません。

8. 肺癌の分化と治療との関係
 小細胞癌には、化学療法、小細胞癌以外には、外科的切徐が先ず取るべき選択です。しかしながら、進行した腺癌や扁平上皮癌では、放射線照射、化学療法が使われますが、予後は、不良です。このような、進行肺癌には、活性化リンパ球療法が有効なことがあります。先にも言いましたが、進行肺腺癌患者で、活性化リンパ球療法で明らかに延命した症例を経験しています。もちろんQOL(quality of living)も改善しました。近い将来、この治療法が、健康保険で支払われたらいいと思います。

写真1
高分化偏平上皮癌 低分化平上皮癌

写真2
低分化腺癌
中分化腺癌
高分化腺癌


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