健・検・謙・診・信・玄


あかお医院 院長 乳腺専門医 赤尾周一


 上杉謙信は大の酒好きであった。しかし、酒の飲み方が変わっていた。梅干だけを肴に、一人手酌酒を楽しんでいた。戦国の世、大勢での酒宴はむしろ危険であったかも知れない。
  現代医学からみれば、危険なのは酒より、“梅干が肴”である。宿敵、武田信玄が今川氏真に塩止めを受けた際に、「敵(信玄)に塩を送る」話が知られている。謙信は人間の命綱、塩をたくさん所有していた。
  1578年謙信は本拠地春日山城で関東?遠征準備中に倒れた。享年49歳。死因は高血圧による脳卒中の可能性が高い。酒の肴−梅干の塩分が効きすぎた可能性がある。
私は日本人を塩人と呼んでいる。それほど日本人は塩分摂取が過剰なのだ。高血圧や腎臓病患者の一日の塩分摂取が6グラムに制限されるのに、普通の日本人は減ったとはいえ、平均11グラムも摂取しているのだ。謙信は有り余る塩に殺されたのだ(塩罪)!
  上杉謙信から塩を貰った武田信玄のドラマが終わったばかりですが、信玄の死因にも諸説があります。結核説と胃癌説、そして戦死説です。生前、胸のつかえ、食事の通りが悪いと訴えていたことから、食道・噴門部(食道と胃の連結部)のがん説が強いようです。享年53歳ですから、謙信同様、当時としては平均寿命だったのでしょう。
  彼の名を冠した信玄袋が一般に流行したのは明治になってからだそうです。信玄袋の由来は武田信玄が陣中で使っていたことからですが、巾着袋との違いは厚手の底があるかないです。こんな便利な袋、明治にいたるまでは誰も使わなかったのでしょうか。
信玄の死因が噴門部癌だとすると、彼の胃袋は口を縛った信玄袋みたいになっていた可能性があります。信玄が、胃がん検診を受けていれば、川中島の合戦の雌雄が決していたかもしれませんね。
  一方、上杉謙信だって毎年、健康診査略してケンシン(健診)をうけ、血圧の管理をしていたら日本の歴史も変わっていたかもしれない。謙信の死因に胃がん説もある。塩分の過剰摂取は胃がんの要因でもある(これも塩罪)。
  謙信と信玄にかけて健診と検診の違いを説明したわけだが、要するに健診は病気がなく健康であることを証明するのに対し、検診は特定の病気を見つけることで、正反対の意義と言ってもよい。これからがん検診の話に移ります。
  私は日常臨床で、乳腺、大腸、胃、肺がん検診を受け持っているが、患者さんから、こんな質問を度々うける。「がんケンシンは毎年やるんですか」。極めて切実な問でありながら、これに明確に答える日本製の証拠(科学的根拠)はない。
  一体がん検診の目的はなんだろうか。がんを確定診断することではない。がん検診とは、あくまで本人が自覚しない段階で早期のがんをみつけ、その結果として、検診を行った市町村のがん死亡が減ること(検診の有効性)が目標である。
  がん検診の歴史は、昭和40年ごろまでには一応の体制は整ったが、残念ながらその有効性評価までには到らなかった。その理由は検診受診率の低さと検診後のフォローがなされなかったことにある。
1982年に老人保健法に基づく胃、子宮、肺、乳腺、大腸がん検診が改めて開始され、 漸くにして検診の有効性評価(A〜Dランク)が厚生労働省より報告された。
  その結果をA,Bランクだけ解説しましょう。


  Aランク:死亡減少効果を証明する確かな根拠がある検診
    子宮頸がん 細胞診検査
    乳がん 50歳代女性のマンモグラフィ(以下マンモ)と触診の併用
    大腸がん 便潜血反応

  NHKの「ためしてガッテン」を見た方はご存知ですね。若い女性ほどマンモは雪景色(乳腺が白い画像に写る)です。かたや、乳がんもマンモでは白兎(白い塊)に写ります。年齢が若いほど雪景色(乳腺)の中の白兎(乳がん)を探すことは難しくなります。私は自分の体験から、「雪の積もったゴルフ場ではゴルフボールは見つけにくい」と説明していました。では、若い女性の乳がん検診はどうするか。
  超音波(エコー)を併用することが対策となりましょう。エコーでは乳腺はやはり雪景色ですが、乳がんは黒く写ります。雪景色に黒兎なら見つかりましょう。これから乳がん超音波検診に関する有効性の証拠集めが始まるでしょう。
  番組では、自己触診の大切さも強調していました。定期的に触ることがしこりを的確に見つける“こつ”です。月1回(生理のある人は終了日からかぞえ7日目に限定)ぜひ実行してください。万が一、しこりを見つけたら乳腺専門医のいる外科、ないし乳腺科を受診しましょう。


  Bランク:死亡減少に相応の根拠がある検診

  胃X線検査による胃がん検診:例のまずい白い液体(バリウム)を飲む検査です。最近少しバリウムのまずさが改善されました。信玄がこれを受けていれば寿命が延びたかもしれません。なお、内視鏡(胃カメラ)は費用の関係で評価の対象外です。
  触診とマンモグラフィ併用による乳がん検診(40歳代):すでに説明しました。
  胸部X線写真と高危険群に対する喀痰細胞診による肺がん検診:要するに喫煙者は両方とも検査することです。胸部]線では肺がんの写りにくい部位があります。これを補うためのCT検査の有効性はこれから検証開始ですが、集団的がん検診には向きません。やはり費用対効果が低いからです。
  肝炎ウィルスキャリア検査による肝癌検診:今、話題のC型肝炎、B型肝炎 の原因ビールスを血液で調べることができます。最近は内視鏡検査の際にも感染の有無がしらべられています。
  以上が現在、集団的(対策型)がん検診の効果が実証されている検査です。
  勿論、個人が自腹でいろいろな付加検査をしてはいけないと言う理由はありません。たとえば、私見であることをお断りしておきますが、ピロリ菌やペプシノゲン測定による胃がん検診、PSA検査による前立腺がん検診などは費用対効果の点からもおすすめできるがん検診といえます。
  日本でのがん検診最大の問題は、今でも受診者が少ないことです。そのために全国レベルの有効性評価が出来ません。乳がん検診も全国平均20%の受診率だそうです。たとえて言えば中学校50人クラスの中で10人だけに補修授業をしても、クラス全体の平均点は上昇しないでしょう。
  日本人ががん検診を受けがたい理由に‘もしがんが見つかったらどうしよう’があります。数年前の話ですが、韓国へPETによるがん検診と美容を兼ねたツアーが話題になりました。しかし、本当にツアー客の一人にがんが発見されて以来、ツアーは消滅したそうです。私は当初よりこのようなツアーではパニックが起こることを予想していました。
乳がん検診をアピールする前に、乳がんは自己触診で見つかった時点で発見、診断されても、十分治る可能性のあるがんであることを宣伝するほうが先だと思います。

あかお医院ではデジタルマンモエコーで乳がん検診をおこなっています。

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